2013年07月30日

夏期講習中期〜鉛筆デッサン〜

夏期講習中期2日目です
最近突発的な集中豪雨で色々なイベントが中止になってますねー
年を経る度に日本全体が熱帯気候に近づいているような…
うーん怖い

昨日に引き続き本日も構成デッサン!
豆腐がモチーフということで、ちょっと難しいモチーフですが昨日のペンデッサンによる仕事の使い分けを上手く今日の鉛筆にいかしてがんばってね

かわむら
posted by ユガカ at 12:05| 千葉 🌁| Comment(0) | TrackBack(0) | 連載小説 『赤レンガの門』 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年04月19日

連載小説 『赤レンガの門』 最終回

JR上野駅。列車のドアが開いた瞬間ホームが人で埋まる。皆おのおのに自分の目的地へ向かう。多くの人達が行き先もバラバラにこの駅で行き交う。

人の波をうまくスリ抜け公園口改札を出る。外の光が眩しい。横断歩道で信号待ちをしている人達。そのほとんどがG大入試の関係者であることは風貌を見れば何となくわかる。

現在15時20分。
合格発表は13時00分にG大の掲示板に貼り出される。

横断歩道の反対側にはすでに発表を見て戻って来た人が立っている。
G大合格者の証である白い紙袋を下げている者、肩を落とし下を向き何かを考えている者...。
あと数分後には自分もこの歩道の向こう側でどちらかになっているのか.....。
ここはまさに、人生交差点。

上野恩賜公園は桜が咲き、淡いピンク色で公園全体を飲み込んでいる。空は澄み切ったように青い。
まさに小春日和でポカポカとした平和な空。しかし、心無しかG大の近くの空は淀み、色々な思念がとぐろを巻いて、どんよりとくすんでいるように見えた。

自分は受かっているのか、落ちているのか....。
一歩一歩、歩くごとに気分が入れ替わる。
「絶対、受かってる!................やっぱ、落ちてるかな.....」
そんなことは考えたってわからない。掲示板で受験番号を確認するまでわからないのだ。わかってはいるが...やはり考えてしまう。

僕は、あのときの自分に出来る精一杯の絵を描いた。納得できる一枚が描けた。あとはそれをG大の教授が認めてくれるかどうかだ。やれるだけはやった。だから結果はどうあれ後悔はしない。
落ちてたら、自分よりも凄いヤツが60人いたってことだ。
それが運命なら甘んじて受けよう。きっと神様が今は受かる時じゃない、受かったらダメになるよ...って言ってるのかもしれないし。
人事は尽くした。あとは天命を待つのみ。

そんなことを考えているうちにG大まであとわずか数十メートル。歴史を感じさせる赤レンガの門が眼前に迫る。

門を抜け、少し奥に進むと木製の年季の入った掲示板がある。そこに最終合格者の受験番号が貼り出される。
まわりには掲示板を見て呆然と立ち尽くす人。歓喜の声を上げ仲間と抱き合う者。嬉し泣き、悔し泣き。
静寂な上野公園とは打って変わって、場末の居酒屋のような、怒濤の人間ドラマが展開されていた。

一次試験の合格発表とは比べものにならない程、合格者の数が少ない。貼り出してある紙はたったの二枚。あのなかに果たして自分の番号があるのか。無い方が普通だ...。そう思わせる程の受験番号の数。

少しずつ掲示板に近づく。とてもゆっくり、スローモーションのように時間が流れる。自分の心臓の音しか聞こえない。
途中から下を向きながら歩く。右、左、片方ずつ足を前に出す。地面を踏みしめる。掲示板の前で足を止める。意を決して顔を上げる。


.....................................................................................................................ある。

番号がある!ある。確かに!

....................................................................

受かったあとのことを考えて無かった。

まずは合格の手続きをしなければ....。

心の中は、とてもあっけらかんとしていた。喜びは確かにある。しかし、G大に合格すれば自分は変わると、凄いことになると、まさに生まれ変わる程のことが起きると考えていた。が、ただ淡々と手続きが進んでいくだけだ。何も変わらない。

.........いや、変わったのだ。2年間の予備校生活、1日1日の課題の積み重ねが、ゆっくりだが、確実に力をつけ、まさにG大に合格する程に自分を変えていたのだ。

大学に受かったから自分が変わるのではない。大学に受かることは結果にしかすぎない。それは後から付いてくることだ。力がつけば、大学生になれるのだ。

僕はG大に受かった。美術大学の最高峰とされるG大に。
だからといって、誰しもがアーティストになれる訳ではない。お笑いで言えば、芸人の養成所に受かったようなものでしかない。ここからが勝負だ。
でも今は少しだけ、今まで頑張った自分へのご褒美に、好きなだけ寝て、好きなだけ遊ぼうと思う。

終わり
posted by ユガカ at 12:41| 千葉 | Comment(3) | TrackBack(0) | 連載小説 『赤レンガの門』 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年04月14日

連載小説 『赤レンガの門』 第二十七回

毎年2000人近くの受験生がG大油画専攻を目指す。

1次試験で約450人までに絞られ、2次試験で定員の60人が決定する。
美大受験の最難関であるG大油画専攻の入学試験。
誰もがG大に入学することを夢見て、予備校で青春の火花を散らす。

果たしてG大に何があるのか...。それはわからない。数多くの絵描きやアーティストがそこから巣立っていった。
自分もG大に合格できれば、絵描きとしての可能性が自分には確かにある、と認めてもらえたと言えるのだろう。
君はアーティストになれる、と。

夢を夢のままで終わらせない。自分の可能性を信じたい。自分は特別だと思いたい。
色々な想いのなかでみんな美大を目指す。
そしてそのなかの最高峰(といわれている)東京G大学に合格すれば、少なくともその年の受験生のトップ60に入るということだ。想像するだけでも、その快感は筆舌に尽くしがたい。
必死に頑張り、切磋琢磨している数多の受験生の頂点に立つ...。
自分は果たしてこの二年間でどこまでいけたのだろう...。

G大最終合格発表の今日、それを確かめるために、僕はG大へと向かう。

つづく
posted by ユガカ at 20:56| 千葉 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 連載小説 『赤レンガの門』 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

連載小説 『赤レンガの門』 第二十六回

G大2次試験最終日。

一日目は下地づくりだけに留まり、今日一日が勝負となる。
6時間でどこまでやれるか...。やれるだけやるしかない。
イーゼルに架かったキャンバスを前に座り、道具を広げ、制作の準備をする。そして僕はファイルから一枚の写真を取り出した。

昨日の試験終了後、家に帰ってファイルを眺めていた。絵を描く資料として集めていた雑誌の切り抜きやコピーをまとめたお手製のファイルだ。
二年間かけて集めた量は膨大で、様々な思い出が駆け巡る。
「あのときはこの絵に憧れて、それっぽいのずーっと描いてたなー。」などとその当時のことを思い出す。
そんなとき、一枚の写真が目に止まった。
フルヌードの男性が草原でエビぞりになって宙に浮いている、なんとも形容しがたい不思議な写真。
「...これ、G大の課題にぴったりじゃん。」
構図が定まらないまま焦らずに描きださなくてよかった。この写真をモチーフに勝負を賭けることにした。

昼飯もとらずに一気呵成に描き上げる。
最後の受験。
最後の試験。
異常なまでの集中力が生まれる。筆は軽く、思考はクリアだ。
描き上げたあとに確かな手応えがあった。

ふと冷静になり周りの絵を見る。
「あれは...もっとこうすれば良いのに...」
勝手に頭の中で他人の絵を講評する。不思議なことにこのとき、僕にはG大の入試に対しての明快なビジョンが見えていた。

「もっとこうスコーンとさぁ...。」
「世界観が...。」
「オリジナリティーのある...。」
講評で言われた様々なことが頭を駆け巡る。そのときはわからなかったが、今ならはっきりその言葉の意味が理解できる。
「自分が本当に表現したいこと、一番大切なことを正直に出すこと。」
今なら、その言葉の意味がわかります!先生!

試験終了後、試験会場をあとにする。荷物をまとめ退出する。四日間通ったG大絵画棟の8階のアトリエ。
ここで会田誠や小沢剛など、今をときめく様々な才能が学び、制作をしていたのだな...。夢のような四日間だった...。
そんなことを思い、キャリーを引いて教室を出た。

つづく
posted by ユガカ at 17:24| 千葉 ☁| Comment(1) | TrackBack(0) | 連載小説 『赤レンガの門』 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年04月12日

連載他説 『赤レンガの門』 第二十五回

G大2次試験最終日。

一日目は下地づくりだけに留まり、今日一日が勝負となる。
6時間でどこまでやれるか...。やるだけやるしかない。
イーゼルに架かったキャンバスの前に座り、道具を広げ、制作の準備をする。そして僕はファイルから一枚の写真を取り出した。

昨日の試験終了後、家に帰ってファイルを眺めていた。絵を描く資料として集めていた雑誌の切り抜きやコピーをまとめたお手製のファイルだ。
二年間かけて集めた量は膨大で、様々な思い出が駆け巡る。
「あのときはこの絵に憧れて、それっぽいのずーっと描いてたなー。」などとその当時のことを思い出す。
そんなとき、一枚の写真が目に止まった。
フルヌードの男性が草原でエビぞりになって宙に浮いている、なんとも形容しがたい不思議な写真。
「...これ、G大の課題にぴったりじゃん。」
構図が定まらないまま焦らずに描きださなくてよかった。この写真をモチーフに勝負を賭けることにした。

昼飯もとらずに一気呵成に描き上げる。
最後の受験。
最後の試験。
異常なまでの集中力が生まれる。筆は軽く、思考はクリアだ。
描き上げたあとに確かな手応えがあった。

ふと冷静になり周りの絵を見る。
「あれは...もっとこうすれば良いのに...」
勝手に頭の中で他人の絵を講評する。不思議なことに、このとき僕にはG大の入試に対しての明快なビジョンが見えていた。

「もっとこうスコーンとさぁ...。」
「世界観が...。」
「オリジナリティーのある...。」
講評で言われた様々なことが頭を駆け巡る。そのときはわからなかったが、今ならはっきりその言葉の意味が理解できる。
「自分が本当に表現したいこと、一番大切なことを正直に出すこと。」
今なら、その言葉の意味がわかる気がします!先生!

試験終了後、試験会場をあとにする。荷物をまとめ退出する。四日間通ったG大絵画棟8階のアトリエ。
ここで会田誠や小沢剛など、今をときめく様々な才能が学び、制作をしていたんだな...。夢のような四日間だった...。
そんなことを思い、キャリーを引いて教室を出た。

つづく

posted by ユガカ at 15:12| 千葉 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | 連載小説 『赤レンガの門』 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年03月30日

連載小説 『赤レンガの門』 第二十四回

午後七時五十分。
全速力で人混みのなかを駆け抜けていた。
「あと十分で画材屋がしまる!」

G大の1日目の試験終了後、予備校に戻り本田先生と相談した結果、
「デッサンに使えそうな画材をひたすら買ってきて、手当たり次第に試そう。」ということになった。
そして僕は、先生から借りた二千円を握りしめ、画材屋まで全力疾走しているというわけだ。

なんとか閉店直前の画材屋に辿り着き、鉛筆、黒鉛、パステル、コンテなどの画材を買えるだけ買い込み、すぐさま夜の街を逆方向に疾走するのであった。

予備校に戻り、色々と試した結果、コンテチョークが一番しっくりきた。これでとりあえず何とかなりそうだ。
時計の針は十時を回っていた。
「明日も頑張れよ。」
そう声をかけられ帰宅する。

次の日。
モデルさんは相変わらずピシッとポーズを決め、さすがプロという感じだ。若いのに。
僕は何とかイメージどおりに木炭を描き上げ、ほっと一息ついた感じだった。昨日はどうなることかと思ったが、人間、やる気になれば何とかなるものだ。

明日からの二日間は油彩の課題になる。木炭はこのぐらい描けていれば何とかなるだろう。油画科の試験なんだから油彩が一番ウエイトが重いはずだ。
「とりあえず首の皮一枚つながったかな。」

空高くそびえ立つ絵画棟を背に、また、てくてくと家路へと向かう。
試験終了まであと二日。

つづく

posted by ユガカ at 10:42| 千葉 | Comment(0) | TrackBack(0) | 連載小説 『赤レンガの門』 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年03月26日

連載小説 『赤レンガの門』 第二十三回

3月15日。G大二次試験当日。
今日から四日間かけて上野にあるG大の絵画棟で試験が行われる。

絵画棟の8階の教室が僕の試験会場だった。受験生はエレベーターが使用できないため、自分の試験会場のある階まで歩いて登らなければならない。どっさりと画材を積んだキャリーを持ち上げながら一段一段登って行く。
8階から見える景色はことのほか見晴らしが良く、眼下には上野公園や動物園が見えた。動物園にいるシロクマは白い点のような大きさになって右へ左へ、のっそりと往復を繰り返していた。

試験だというのに、僕にはこの絵画棟がある種のテーマパークのような、これから始まる試験が何かのアトラクションのような気がしていた。微かな緊張も、この状況をよりワクワクさせた。

初日の課題は木炭によるヌードデッサンだった。
よく、美術系でない友達は”ヌード=エロ”みたいな思考回路を持っていて「羨ましいな〜」などと言ってくるが、予備校に来るヌードモデルは大半がお年を召した方で、しかもこっちはいい絵を描こうと必死だから、モデルに見とれたり、ましてや興奮するなんてことない。モデルは色や形や明暗に分解され、キャンバスに美しい線や色彩を与えるための単なる情報(モチーフ)なのだ。

が、しかし、
「綺麗だ...。」
G大のモデルさんは、とても若くて綺麗な人だった。
絵画棟の東向きの大きな窓から入ってくる美しい自然光が、より一層美しくモデルさんを照らし出していた。
モチベーションは一気に上がった。

けれども、「油彩は受かるレベルで、木炭は足を引っ張らないレベルで。」といわれていたので、木炭に関してはほとんど何も対策をしていなかった。
1次試験のときの鉛筆デッサンような感じで、木炭もやろうと思ったが、木炭と鉛筆では画材としての性質が全く違うので、思うように描けない。
「やばい!本田先生に相談だ!」
一日目は構図だけ決め、試験が終わってから予備校で対策を練ろることにした。
「焦らない焦らない。」
窓から見える谷中の街が夕日に飲み込まれていくのを、ただただジッと見つめていた。

つづく
posted by ユガカ at 17:32| 千葉 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 連載小説 『赤レンガの門』 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年03月17日

連載小説 『赤レンガの門』 第二十二回

一次試験の結果がでて、予備校に来る人数もめっきり少なくなった。
毎日通っていた教室が、何かいつもとは違った空間に見えた。
アトリエにヌシの姿は無かった。6浪して今年は確実と誰もが思っていたのに...。

「尾大〜!よくやった!」
本田先生だった。
「はい。受かってました。」
「よかったよかった。さっそくだけど油。あれから色々考えたんだけど、絵具をこういう風に使って....。」
「先生。僕も考えたんですけど、まず最初に白の厚塗りをして、その上に描くと刷毛跡がきれいに残るじゃないですか、だからまずこうして...。」
「わかった、わかった。それだけ考えてあるなら大丈夫だな。」
少し面食らったような顔をして、それから「がんばれ!」と言って、本田先生は背を向けた。

すぐに世◯堂で頭に浮かんだ画材を片っ端から買いまくった。
「あれと、これが必要で、あと、あれか...。」
不思議と頭のなかがクリアになって、自分の絵を描くために何が必要で、何が必要じゃないのかがわかった。今まで考えていた、全てのことが噛み合ったような感じだった。

さっそく頭に浮かんだ絵を描いてみる。
「なんか、可能性でてきたんじゃないか?」
「そうですか?」
「うん。いいよ。」
こんな風に褒められたのは初めてだった。ちょっとニヤける。

自分がG大の二次試験まで受験できることが、楽しくてしょうがなかった。最後のでっかいイベント。
「とうとう明日。やれるだけ、やってみよう。」
蛍光灯の明かりを消した。

つづく

posted by ユガカ at 18:23| 千葉 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 連載小説 『赤レンガの門』 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年03月14日

連載小説 『赤レンガの門』 第二十一回

「絶対にダメだ...。」
もう頭の中ではG大を落ちたことが確定していた。四月からはT美大かM美大に通うのか...。それもそれで僕にとっては出来過ぎなのに...。やっぱりG大行きたかったな。

次の日、予備校に行くとレオナルド藤田似の本田先生が出迎えてくれた。
「お、試験どうだった?ところで尾大、考えたんだけど二次試験はさぁ、こういうのどうだろう?」
そういって手渡された紙には二次試験の油彩対策のエスキースやネタが書き込まれていた。
「先生..。」
僕きっと落ちてます。そう言葉を続けようとして、口をつぐんだ。
まだ僕のことを気にかけて、期待してくれている人がいるんだ。それなのに自分が最初に勝負を捨てる訳にはいかない。あと少し、がんばろう。
「はい!ちょっと試してみます!」

3月11日。東京G大一次試験合格発表。
僕は何度も受験票と掲示板の番号を見返した。
なにかの間違いなんじゃないだろうか...。信じられない...。そういう気持ちで一杯だった。
「受かってる。」

ボーッとして、何も考えられないまま駅へと向かう。
途中、同じ予備校で一つ先輩だった原さんにでくわした。去年T美大に合格し、今は仮面浪人をしてG大を狙っているそうだ。彼女も一次を通過し、家へ戻るところだった。
「尾大くん受かった?良かったじゃん。でもG大はこっからが大変だからね。私なんか毎回一次は合格しても二次で落とされてるから...。もう四回目だよ...。お互い頑張ろうね。」

そうだ...。一次試験に合格したぐらいでこんなふわふわしてちゃだめだ。せっかく掴んだチャンス。必ず物にしないと。原さんの「G大はここからが大変だから」という言葉を胸に、気合いを新たに上野公園を後にするのであった。

つづく
posted by ユガカ at 11:01| 千葉 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 連載小説 『赤レンガの門』 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年03月11日

連載小説 『赤レンガの門』 第二十回

3月6日。東京G大一次試験当日。

僕はボロボロの皮のジャケットを着て総武線に乗っていた。黒鉛で真っ黒くなったお気に入りのジャケット。手にはカルトンとデッサン用具を積んだキャリーを握りしめ、試験会場へ向かう。

電車はちょうど通勤ラッシュで、サラリーマンが僕を見ては「なんだ?」、「邪魔臭い!」といった顔をする。でも気にしない。「僕は絵を描いている。芸術をやっているんだ。僕は凄いことをしようとしているんだ。社会には負けない。」そう心の中でつぶやく。

電車を降りると試験会場である両国国技館の周りに怪しい電報屋が群がっていた。しかし、そこは2年目。言い寄ってきても目もくれず、足早に試験会場へ。
会場に足を踏み入れると、国技館の真っ赤な枡席の絨毯の上に、補色で目に痛い程の鮮やかな緑が。よく見ると檜の苗木が2000本。ずらりと各座席に置かれていた。

「まさか...。」

与えられた植物を題材の1つとしてテーマにしたがって素描しなさい。
テーマ「共生」

試験が始まった。「やっぱりこれモチーフか...。共生って何だ?でも悩んでいる時間はない...。ともに生きるってことか?仲間?」
そこで取り出したのが、グー◯ィーの人形。なぜか前日に鞄の中に入れておいたのだった。なぜグー◯ィーなのか。いまだによくわからないが、とにかくそれと檜の苗木を組み合わせて素描をした。

六時間後。

「終わった...。」
自分自身では全く手応えを感じられぬまま試験は終了した。
何でもうちょっとちゃんと考えてから描き始めなかったのか...。あの時こうしてたら...。あそこをもっと、こうやっておけば...。
後悔が襲う。
総武線の窓に何度も頭を打ち付ける不審な少年の姿がそこにはあった。

つづく
posted by ユガカ at 10:37| 千葉 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 連載小説 『赤レンガの門』 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年03月08日

連載小説 『赤レンガの門』 第十九回

私大に合格した。今まで重くのしかかっていた何かから、やっと解放された感じだった。
何人もいる受験生のなかで認められたということ。それが無くしていた自信をよみがえらせた。
「残すはG大のみ。」

東京G大。150年の歴史を持つ国立大学。立地条件の良さと、学費の安さで絶大な人気を誇る。その倍率は40倍近くに達する。予備校で油画を学ぶものは大抵みなこの大学を目指す。2浪3浪当たり前。中には10浪してまで入学する人もいるという。

私大で結果を出したことで絵に対するコンプレックスを多少なりとも払拭することができたが、やはりG大となると話は別だった。全国から2000人近くの受験生が受験し、入れるのは60人。「僕なんてとても...。」そんな半分あきらめ混じりな感じだった。予備校には僕より絵のうまいヤツがゴロゴロいるのだ。しかも全国から受けにくる。私大に受かったのだって運が良かったからだ。

2年間の浪人生活で前向きに物事を考えることができなくなっていた。なぜか卑屈に考えてしまう。未だに自分自身を信じ切ることが出来なかった。

「でも受かりたい!」
とりあえず私大行きが決まり、予備校から卒業することが出来た。
しかし、今までの2度のG大入試で、僕は一度も一次試験を合格したことがなかった。
G大の一次試験は両国の国技館でおこなわれる。これに合格しないと2次試験をG大校舎で受けることが出来ないのだ。
一度でいいからG大の地を踏みたい。
正直、G大のことは良く知らない。ただ一度でいいからG大の地を踏みたい。
2年間の意地。ただそれだけが僕を突き動かす原動力になっていた。
posted by ユガカ at 15:41| 千葉 | Comment(0) | TrackBack(0) | 連載小説 『赤レンガの門』 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年03月05日

連載小説 『赤レンガの門』 第十八回

私立大学の入試もおわり、今日がその合格発表の日だ。
受験票を握りしめ、電車の窓から外の景色を眺める。陽がまぶしい。久しぶりにボーっと出来る時間だ。

小さい頃からものを創ったり絵を描いたりすることが好きだった。「絵を描いている自分」それが正しい自分の姿だと、何となく感じていた。高校に進学して将来を考えたとき、なんら迷わずに美術の道に進もうと決心した。
絵には自信があったが美大受験に2度失敗した。現実を突きつけられ、そして親には今年結果が出せなければ美大受験をやめて働けと言われた。崖っぷち。

Z大の一次試験で結果を出すことが出来ず、昨年の悪夢がまた再び起こるのではないかという恐怖との戦い。自分を信じるということがどれだけ難しいか...。
もしも今年どこも合格できなければ自分は4月から美術とは全く関係のないことをしながら生きていくのかもしれない。今までの自分がどこかへ消えてしまうような、そんな感覚に襲われた。僕はこれからいったいどうなってしまうんだろう?

しかし、ふとこうも思った。
入試が終わるまでの2ヶ月が、自分の人生で油絵を描くことの出来る最後の2ヶ月になるのなら、自分の好きなように、楽しく絵を描こうと。もしだめでも、自分が心底満足できる絵をこの間に残そう。そう思った。

一駅ひと駅、進む電車のなかで僕は不思議と緊張していなかった。

それは奇跡だった。
T美大、M美大の両方に僕の受験番号があったのだ。
腹のそこから何かがこみ上げて、一気に吹き上がるような、なんとも形容しがたい喜びが体中を駆け巡った。

つづく
posted by ユガカ at 10:20| 千葉 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 連載小説 『赤レンガの門』 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年03月02日

連載小説 『赤レンガの門』 第十七回

M美術大学。
一次試験と二次試験があり、一次試験は学科と木炭デッサン。二次試験は油彩画。
閑静な住宅地の真ん中にぽつりと建つ大学は、校門の形が印象的だ。

僕は何とか一次試験を突破し、二次試験を受けに油絵の道具を詰め込んだキャリーをガラガラと引きずりながら試験会場へと向かっていた。明け方から雪が降り続き、川縁の歩道には雪が積もり始めていた。歩道は水はけが悪く、足跡が残る程にぬかるんだ。キャリーが小石に乗り上げて傾かないように神経を使いながら歩く。吐く息は白い。

試験会場に着くと辺りは何人もの受験生でゴッタ返していた。予備校での人数よりも圧倒的に多い人の数に、こんなにも油絵を描いている人間がいて、そしてこの人数の大半が合格することが出来ないという現実を改めて痛感する。

しかし、僕にはそんな不安よりも一次試験を合格したという嬉しさ、「自分の絵を評価してもらえた!」という感激で胸が一杯だった。まだ最終的な合格が決まった訳でもないのに「今まで絵を描いてきてよかった...。」
そんなことを思ったりしていた。僕にとって、この2年間はそれ程までに自信(過信)とプライド(思い込み)を打ち砕かれ、現実の自分を直視させられた時間だった。だからこそ、たかだか一次試験に合格しただけでも「選ばれた」という事実が何より嬉しかったのだ。

試験監督官の合図で試験が始まる。
一部屋40人弱。全体で500人近くが一斉に絵を描く光景はやはり実際に試験を受けたものにしかわからない、荘厳な雰囲気がある。みんなそれぞれの人生がかかっているのだ。その中で精一杯、やれるだけのことをする。それが、自分を応援してくれた様々な人達、そして何より、今この場で一緒に受験しているみんなに対する礼儀のように感じた。誰もが合格したいのだ。誰もが一生懸命に頑張っている。
受かっても、落っこちても全力を出し切る。それだけだ。結果がどうあれ、恨みっこなし...。

あっ。
と言う間に試験は終了し、へろへろの体を中央線に乗せ家路に着くのであった。

つづく
posted by ユガカ at 11:18| 千葉 🌁| Comment(0) | TrackBack(0) | 連載小説 『赤レンガの門』 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年02月25日

連載小説 『赤レンガの門』 第十六回

日も傾きかけた夕刻。
予備校の廊下では浪人生は喫煙所で一服し、現役生は和気あいあいとご飯を食べながらおしゃべりをしている。ため息を隠すかのように口から煙を吐き出す浪人組。希望に満ちあふれた言葉が会話から溢れ出る少年少女たち。両者は対極的だ。

「俺も2年前はああだったな...。あの頃に戻りてぇ。」
呟いた瞬間、後ろから思いっきり後頭部をはたかれた。振り返るとそこにはレオナルドが。
「お前はそんなこと言ってるからダメなんだよ!」
大きく煙を吐き出し、斜め45度の流し目で睨まれた。
「覇気がないんだよ、覇気が。」
「いや、なんか...。そうですよね...。」
「そうだよ。後ろばっか見やがって。絵ってのは技術で描くもんじゃない。気持ちだよ。気持ち。コンビニ弁当と心のこもった手料理だったら、手料理の方が美味いだろ。」
「先生、その例えよくわかんないです。」
「そうか?とにかく、心。絵にも真心が大切ってことだよ。浮ついた気持ちでいい絵なんか描ける訳ないんだよ。精神を集中してモチーフと向き合う。そこで何を感じることが出来るか。描き方とか、スタイルじゃないんだよ。」
「絵って奥深いですよね。」
「そうだな。画家ってのはそれを一生かけてやってくんだから。相当深いよ。」
「ですよねぇ...。」
「だからこそ、前を見て一歩でも先にいかないと。時間は待ってくれないからな。」

二人しみじみと沈む夕日を眺めながら、それぞれの絵画に対する情熱を新たにするのであった。

つづく
posted by ユガカ at 11:51| 千葉 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 連載小説 『赤レンガの門』 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年02月19日

連載小説 『赤レンガの門』 第十五回 

「なんか普通っぽいていうか、どっかで見たことあるっていうか、もっとこう、スコーンとしたの描けないかな?」
講評棒で床をつつきながらレオナルドは僕の作品を見て呟く。そして最後は決まってこうまとめられる。
「ある程度描けるのは認めるけどさぁ。絵に尾大らしさが出てないんだよ。」

「自分らしさって何だ?」
毎回講評のあとで考えさせられる。僕はただ普通に描きたいだけなのに。
「普通じゃだめなのか?」

そんな疑問をある時、もう一人のクラス担任である蟹沢先生にぶつけてみた。
「僕はただ見たまま描きたいんです。わからないんですよ。世界観とか、個性とか。僕は赤い物は赤く、黄色い物は黄色く描きたいんです。」
「まぁ言いたいことはわかるよ。そうだな。見えたまま描けばいいんだよ。ただ、本当に自分に見えているように、感じているようにね。でも僕が見る限りでは、まだやっぱり、尾大は周りが決めた常識で絵を描いているって感じがするな。こうしなきゃいけない、こう描かなきゃいけないってね。それが悪いって訳じゃないけど、それが尾大の本当に描きたいことを邪魔してる感じなんだよな。」
「....はぁ。」
さっぱり訳がわからず、うなずくのがやっとだった。
「本当に描きたいことを邪魔してる...。」
「まぁ考えてわかるもんでもないから。とにかく手を動かすことだよ。」
「はぁ。」
質問したものの、なんだかよけいに考えることが増えた気がした。

つづく
posted by ユガカ at 18:32| 千葉 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 連載小説 『赤レンガの門』 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年02月16日

連載小説 『赤レンガの門』 第十四回

長野オリンピックの話題が連日TVを湧かせていた。日の丸飛行隊が飛び。原田が泣いた。
技術と精神力をオリンピックという大舞台にあわせて極限まで鍛え上げた選手たち。
「四年に一度なんだよな、オリンピック。」

そう、彼らは四年間己の技を磨きあげ、この日のために自分の全てを出し切る。今の自分の境遇とオリンピック選手をダブらせて感慨に浸る。次元が違いすぎるけど。

相変わらず制作は歯車が噛み合わず、一人モンモンと考える日々が続いていた。
「なんとか切っ掛けを掴まなければ!」
ハ◯ズに行って、何か面白い素材を探しては、これをどうすれば画材として使えるか考えたりした。
一度、樹脂を使って絵を描こうとしたが、硬化剤の量が分からず、いつまでたっても固まらないばかりか、テレピンの匂いと相まって異臭騒ぎとなり、みんなから白い目で見られるハメとなる。
またあるときは、ニルバーナ(90年代を代表するロックバンド)の歌詞(詩の内容が結構暗い。)を大量にコピーして、一句ずつ切り離し、それを意味不明につなぎ合わせ、画面に張りつけて制作していたら、「え?尾大なんかあったの?」みたいな雰囲気になって、講師や友達に心配された。
とにかく思いつくことは何でもやった。

そんな感じで月日は流れ、M美、T美の入試もあとわずかと迫ったころ、いつものように参作室で画集を眺めていた。
予備校にあるほとんどの画集を見尽くし、底をついてきた頃、何気なく手に取った画集をパラパラとめくった。あるページを開いたところで僕は、稲妻にうたれたような衝撃を受ける。

それはピカソの若かりし頃の自画像だった。厚紙に油絵具で、スケッチのように何気なく描かれた作品だった。別にこれと行って派手なところはなく、みんなが思い浮かべる”ピカソ”という感じもしない。本当に地味な自画像だった。
しかし、僕にはそのタッチの一筆一筆が心に染み入り、頭の上で電球が光り輝くような、「これだ!」というひらめきが沸き起こった。
僕は一人その絵に見とれ、今まで心の中でギシギシしていた何かがジワジワと潤っていくのを感じたのであった。

つづく

posted by ユガカ at 12:50| 千葉 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | 連載小説 『赤レンガの門』 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年02月11日

連載小説 「赤レンガの門」 第十三回

泣いた。僕の二年間はいったいなんだったのだろうか?
Z大の結果が発表されてからというもの、緊張の糸が切れ、それまで張りつめていた何かがはじけた。
予備校での二年間が自信ではなく、プレッシャーに変わり始めた。

「今年もか...。」
今年も去年、一昨年の様にこのまま入試を失敗し続けていくのだろうか?多少なりとも去年より力がついていると思っていたのに、何も変わっていないのか?それとも駄目になっているのか?
自問自答をくりかえす。

今年で最後という親父からの言葉が頭に響き渡る。気持ちが沈む。もう絵なんて描きたくない...。出来る事ならこのまま眠っていたい...。


それでも僕は予備校に行く。
朝の六時には自然と目が覚める。二年間つづけた生活のリズムが、僕の気持ちとは逆に、体を予備校へと向かわせる。
あのテレピンの匂いと、油絵具の感触。一日だって忘れる事が出来ない。
「習慣てのは恐いもんだな...。」
筆の入ったプリングルスの空き箱を握りしめ、アパートのドアを開けた。

つづく
posted by ユガカ at 18:31| 千葉 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 連載小説 『赤レンガの門』 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年02月07日

連載小説 「赤レンガの門」 第十二回

帰りの電車のなか、僕は吊り革につかまって下を向き、うなだれていた。
試験の内容は『配布された詩を読んで、自由に発想して描きなさい。』という課題だった。どこかでZ大の一次は絶対に顔を描く課題だろうと思い込んでいた。今までの流れからすれば今回の課題も自分の顔をデッサンするはずなのだ。
なのに!
「なのにどうして詩なんだよぉ...。」
そんなことを思ったところでもうどうにもならないことは分かっているのに...。

課題を読んだとたん頭が真っ白になった。思考力が完全に停止してしまった。ただただ焦るばかりで、何を描いていいのか訳が分からなくなり、前日に予備校で描いたデッサンと全く同じ絵を描いてきてしまった。
「だめだ...」

周りのみんなはそんな僕の状態を見て、「大丈夫だよ!」「まだ分かんないじゃん!」と明るく声をかけてくれた。
そう、まだ結果が発表される前からだめだと決めつけるのは良くない。
「案外、目立っていいかもよ。」
そうかな?
「大丈夫だって!」
大丈夫かな?いや、でもあれはどう見たって...。今年が最後の受験だってのに。ああ、やっちまった!なんであんなの描いてきちゃったんだ!顔だと思ってたのに!なんで顔じゃないんだ!ちくしょぉ〜!

「だから大丈夫だって!」
どいつもこいつもお気楽に言ってくれるな!

「気休めはやめてくれ!課題違反じゃないか!あれで受かっているわけないじゃないか!」
心の中で叫ぶ。それを声に出してしまったら自分が本当に最悪の人間になってしまう気がした。

2月4日、昼休み。
Z大1次の合格発表が予備校の壁に一斉に張り出される。
何人かが声を上げガッツポーズをしている。
「尾大、どうだった?」
「いやーやっぱり今年もなかったよ。やっぱあの大学とは縁がないのかなー。あはははは。お前は?そっか、2次試験頑張ってこいよな!」

その夜、僕は一人枕を濡らした。

つづく
posted by ユガカ at 14:27| 千葉 🌁| Comment(0) | TrackBack(0) | 連載小説 『赤レンガの門』 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年02月03日

連載小説 『赤レンガの門』 第十一回

試験に向かう電車の窓から眺める景色が好きだ。
6時台の電車は人もまばらで、段々と空が明るくなっていく。いつもの満員電車ではなく、向かう場所もいつもとは違う。軽い小旅行のような感覚にワクワクして心躍った。

Z大1次試験。3時間でおこなわれる鉛筆デッサン。短距離走のように瞬発力が鍵になる。
「大丈夫。」僕は自分自身に言い聞かせた。
僕は曲がりなりにも2年間浪人して、実力を養ってきた。けっしてここまで楽な道のりではなかった。3時間でデッサンを描き切る訓練も嫌という程積んだ。
「大丈夫。」今度は言葉に出して、そっと呟いた。

10時。
試験が始まった。
「よし!どんな課題だってやってやる!」
問題用紙をめくり、課題を読んだ。とたん、頭のなかが真っ白くなった。
「こんな課題やったことがない.....。」

つづく
posted by ユガカ at 19:25| 千葉 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 連載小説 『赤レンガの門』 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

連載小説 『赤レンガの門』 第十回

実家に帰って僕が得たもの。
それは、周りのみんなが着実に未来を歩んでいるのに、自分は同じ場所でただ足踏みを続けていることに対する焦燥感と、美大受験は今年まで、という親父からの最終通告だった。

それからというもの、僕は今まで以上にがむしゃらに制作した。周りから見ればさぞ一所懸命に見えたことだろう。授業の始まる三十分前には予備校に着き、クロッキーをしたり、ひたすら画集を見た。僕はがんばった。自分でもそう思える程に。
しかし、そのがんばりに反比例して作品の出来はよくなかった。
レオナルドからは「硬い!」だの「つまらない!」だの、作品の評価は芳しくなかった。時間だけが、ただ流れていくような感じだった。手応えがなかった...。

そうしてとうとう今年最初の試験である、Z大の1次試験の日を迎える。
Z大の1次を僕は今まで1度も通過したことがなかった。
現役のときは八王子駅から、何を思ったかH高線に乗ってしまい、間違いに気付いてすぐ電車を降りるものの反対側の電車が一時間に一本しかないというローカル線ならではのアクシデントに遭遇。試験を受けることも出来ずに散るという苦い思い出があった。

今年を占うため、毎年のZ大1次落ちという悪の連鎖を断ち切るため、ここでどうしても僕は結果を出さなければならなかったのだ。

つづく
posted by ユガカ at 19:23| 千葉 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 連載小説 『赤レンガの門』 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする