2006年03月05日

連載小説 『赤レンガの門』 第十八回

私立大学の入試もおわり、今日がその合格発表の日だ。
受験票を握りしめ、電車の窓から外の景色を眺める。陽がまぶしい。久しぶりにボーっと出来る時間だ。

小さい頃からものを創ったり絵を描いたりすることが好きだった。「絵を描いている自分」それが正しい自分の姿だと、何となく感じていた。高校に進学して将来を考えたとき、なんら迷わずに美術の道に進もうと決心した。
絵には自信があったが美大受験に2度失敗した。現実を突きつけられ、そして親には今年結果が出せなければ美大受験をやめて働けと言われた。崖っぷち。

Z大の一次試験で結果を出すことが出来ず、昨年の悪夢がまた再び起こるのではないかという恐怖との戦い。自分を信じるということがどれだけ難しいか...。
もしも今年どこも合格できなければ自分は4月から美術とは全く関係のないことをしながら生きていくのかもしれない。今までの自分がどこかへ消えてしまうような、そんな感覚に襲われた。僕はこれからいったいどうなってしまうんだろう?

しかし、ふとこうも思った。
入試が終わるまでの2ヶ月が、自分の人生で油絵を描くことの出来る最後の2ヶ月になるのなら、自分の好きなように、楽しく絵を描こうと。もしだめでも、自分が心底満足できる絵をこの間に残そう。そう思った。

一駅ひと駅、進む電車のなかで僕は不思議と緊張していなかった。

それは奇跡だった。
T美大、M美大の両方に僕の受験番号があったのだ。
腹のそこから何かがこみ上げて、一気に吹き上がるような、なんとも形容しがたい喜びが体中を駆け巡った。

つづく
posted by ユガカ at 10:20| 千葉 ????| Comment(0) | TrackBack(0) | 連載小説 『赤レンガの門』 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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