M美術大学。
一次試験と二次試験があり、一次試験は学科と木炭デッサン。二次試験は油彩画。
閑静な住宅地の真ん中にぽつりと建つ大学は、校門の形が印象的だ。
僕は何とか一次試験を突破し、二次試験を受けに油絵の道具を詰め込んだキャリーをガラガラと引きずりながら試験会場へと向かっていた。明け方から雪が降り続き、川縁の歩道には雪が積もり始めていた。歩道は水はけが悪く、足跡が残る程にぬかるんだ。キャリーが小石に乗り上げて傾かないように神経を使いながら歩く。吐く息は白い。
試験会場に着くと辺りは何人もの受験生でゴッタ返していた。予備校での人数よりも圧倒的に多い人の数に、こんなにも油絵を描いている人間がいて、そしてこの人数の大半が合格することが出来ないという現実を改めて痛感する。
しかし、僕にはそんな不安よりも一次試験を合格したという嬉しさ、「自分の絵を評価してもらえた!」という感激で胸が一杯だった。まだ最終的な合格が決まった訳でもないのに「今まで絵を描いてきてよかった...。」
そんなことを思ったりしていた。僕にとって、この2年間はそれ程までに自信(過信)とプライド(思い込み)を打ち砕かれ、現実の自分を直視させられた時間だった。だからこそ、たかだか一次試験に合格しただけでも「選ばれた」という事実が何より嬉しかったのだ。
試験監督官の合図で試験が始まる。
一部屋40人弱。全体で500人近くが一斉に絵を描く光景はやはり実際に試験を受けたものにしかわからない、荘厳な雰囲気がある。みんなそれぞれの人生がかかっているのだ。その中で精一杯、やれるだけのことをする。それが、自分を応援してくれた様々な人達、そして何より、今この場で一緒に受験しているみんなに対する礼儀のように感じた。誰もが合格したいのだ。誰もが一生懸命に頑張っている。
受かっても、落っこちても全力を出し切る。それだけだ。結果がどうあれ、恨みっこなし...。
あっ。
と言う間に試験は終了し、へろへろの体を中央線に乗せ家路に着くのであった。
つづく
2006年03月02日
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